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京都地方裁判所 昭和28年(行)4号 判決

原告 木下静男 外一名

被告 京都府農業委員会・京都府知事

一、主  文

被告京都府農業委員会が昭和二十七年十二月五日に別紙目録記載の山林の買収計画についてした、訴願棄却の裁決、及び被告京都府知事が昭和二十八年一月十二日付で右買収計画に基いてした、買収処分は、いずれも無効であることを確認する。

訴訟費用は、被告等の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、主文同旨若しくは、主文第一項記載の各行政処分を取消す、訴訟費用は被告等の負担とする、との判決を求め、その請求原因として、別紙目録記載の山林(以下単に本件山林と略称する)は原告の所有であるところ、京都市伏見区農業委員会(以下単に区委員会と略称する)は、昭和二十五年五月十日に本件山林の中の別紙目録一、記載の山林(以下単に本件第一山林と略称する)について、自作農創設特別措置法第三十条第一項、第三十八条第一項により買収の時期を同年七月二日とする買収計画を定めて公告した(以下この計画を単に第一計画と略称する)、そこで原告は、本件第一山林は現在竹林で農地には不適であるとして、同年五月十八日に区委員会に異議の申立をした(以下この申立を単に第一異議と略称する)ところ、区委員会は同月二十二日に異議相立たずとの決定をした(以下この決定を単に第一決定と略称する)ので、同月三十日に被告委員会に訴願をした(以下この訴願を単に第一訴願と略称する)ところ、同被告は数回にわたつて審理をしたのであるが、何時の間にか審理を放置し、原告の右訴願に対して何等の措置もせずに日時を経過した、ところが区委員会は昭和二十七年五月一日に、本件山林について同法条により買収の時期を同年七月一日とする買収計画を定めて公告した(以下この計画を単に第二計画と略称する)、そこで原告は、甚だ不可解な処置とは考えたが、第一計画の時と同一の理由で同年五月十九日に区委員会に異議の申立をした(以下この申立を単に第二異議と略称する)ところ、区委員会は同月三十日に異議相立たずとの決定をした(以下この決定を単に第二決定と略称する)ので、同年六月十日に被告委員会に訴願をした(以下この訴願を単に第二訴願と略称する)、ところが区委員会は同年七月二十二日に又もや本件山林について、同法条により買収の時期を同年九月一日とする買収計画を定めて公告した(以下この計画を単に第三計画と略称する)、そして同年八月五日に、前記第二異議を準用してか異議相立たずとの決定をした(以下この決定を単に第三決定と略称する)、原告は、右第三計画に対しても第一計画の時と同一の理由で同年八月十二日に異議の申立をした(以下この申立を単に第三異議と略称する)ところ、区委員会は、同月十六日に異議相立たずとの決定をし(以下この決定を単に第四決定と略称する)、その通知書に追記として、前記第二、三決定を取消す旨記載した、そこで原告は、同月二十日に被告委員会に訴願をした(以下この訴願を単に第三訴願と略称する)、かくて被告委員会は、同年十二月五日に原告の訴願を棄却する旨の裁決をなし(以下この裁決を単に本件裁決と略称する)、原告はその裁決書を昭和二十八年一月八日に受領した、そして被告知事は同月二十八日に同月十二日付の本件山林の買収令書を原告に送達して、本件山林を買収した(以下この買収を単に本件買収と略称する)のである、しかしながら本件裁決及び買収は、次のような理由で無効である、すなわち区委員会は、前記のように本件第一山林については前後三回、又本件山林の中の別紙目録二、記載の山林(以下単に本件第二山林と略称する)については前後二回にわたつて、同一の買収計画を樹立し、後の計画を定めるに当つても前の計画を取消していないのであるから、後の計画は当然無効と解すべく、従つて無効な買収計画を前提とした訴願の裁決や買収は無効であるからである、仮にそうではないとしても本件裁決及び買収は、次のような理由で取消さるべきものである、すなわち本件裁決は第二訴願に対するものか第三訴願に対するものか全く不明で、仮に第二訴願に対するものであるとすれば、その前提をなす第二決定が区委員会の決議によらずにその事務員によつて勝手に会長中村長三郎の名義でなされたものであつて、不存在であるからであり、又仮に第三訴願に対するものであるとすれば、一般に行政委員会が合議体をもつてした行政処分は上級官庁においてのみ取消又は変更できるのにかゝわらず、その前提をなす第四決定が処分庁自ら前記のとおり第二、三決定を取消してした違法なものであるからである、更に仮に以上の点に理由がないとしても、(1)本件山林は山科川に注ぐ合場川下流に位し、かつ低地であるため毎年雨期に合場川の氾濫により水害に見舞われ、そのために石原同様で竹林の栽培には適するが、到底田畑に開墾することは不可能であり、(2)元来本件山林所在の部落は、優良な竹材の産出地であつて、自作農創設特別措置法施行前は竹林面積八町五反に及んでいたのであるが、現在は僅かに一町七反に減少しており、将来外貨獲得のために竹材は益々重要性を認められつゝあり、一方食糧事情は好転している今日、農地に不適当なものを強いて農地にしようとして新に現在のような竹林とするまでには普通二十年もの歳月を要する程の貴重な竹林を、未墾地として買収しようとするが如きは、国土の利用価値を無視するものというべきであり、又原告はこの竹林によつて年間金十万円以上の収入を得ているのに反し、多額の開墾費用を使い仮に畑地となしえても(水田とすることは絶対不可能である)年間金三・四万円以上の収入は望むことができないのであつて、この点においても原告の収入を不当に弾圧するものである、(3)以前本件山林に匹敵する竹林が合場川の対岸にあり、食糧増産の要請に応え昭和二十三年頃に開墾して畑地としたが、石塊が多く野菜等の栽培には適しないので、已むなく柿、栗等を植えている始末で、これ以上に本件山林は不適農地とみることができるから、柿、栗等の果樹を栽培する以外には利用価値がないことが明白であり、結局食糧増産の要請に応え得ない結果となる訳である、(4)被告委員会は、本件山林について開拓適地審査会京都市地方部会が開拓適地と判定している点を重要視して、本件裁決をしたようであるが、右審査会は現地を調査するに当り本件第二山林の東南に接する畑地が元竹林で畑に開拓されていることを確めたゞけで、簡単に本件山林全部を開墾適地と判定したものであり、本件山林の全般にわたつて土質、石塊の深さ、石塊の量等を精密に調査していないのであるから、右判定は一顧の価値もないものである、従つて本件山林を未墾地として買収することは、違法であるといわなければならない、以上のとおりであるから、請求の趣旨記載のとおりの判決を求めるため本訴に及んだと述べ、被告等の第一計画が消滅したとの主張に対し、被告等主張の政令には買収計画の効力については何等の定めもしていないし、第二計画の公告では第一計画取消の意思は少しも伺われないのであるから、かゝる主張は到底許容できない、仮に取消の意思表示がありうるとしても、被告等の主張は許されない、すなわち国民の権利に重大な影響を及ぼす国又は地方公共団体の行政処分に対し不服の道を開いた所以は、不当乃至違法な行政処分によつて権利を侵害されるおそれのある者に対し救済の手段を与えるものであるから、行政処分に対して訴願をした以上、申立人はこれに対する審議を受ける法律上の権利を取得したものと解すべく、この権利は訴願裁決請求権と称せられ、何人よりもみだりに奪うことのできないものである、従つていやしくも、一度訴願が受理された以上、処分庁においてその前提をなす行政処分の取消をすることは右の権利を奪うことに帰するから、許されないものというべきであるからである、若し被告等の主張するように何時でも自由に取消すことができるとすれば、折角訴願の手続をしたものが空しく消え去り、何度でも同一手続を繰返さねばならない結果になることを認容しなければならないことゝなつて、国家がかゝる不安定極まる救済手段を与えたものとは到底考えられないのであるから、被告等の見解の誤りであることは多言を要せずして明らかというべきである、殊に行政訴訟の場合においてはその前提をなす行政処分が取消されることによつて訴訟が終了する結果となるが、かゝることは訴訟法理一般に照らして到底許されないのである、而して右の理論は、第二、三決定の取消が有効であるとする被告等の主張にもそのまゝ適用されるべきものである、なお被告等は、第三決定の取消は昭和二十七年八月二日の区委員会の決定に基いて同月十六日にしたものであると主張するが、第三決定は同月五日になされているのであつて、このことは区委員会の手続が如何に混乱しているものであるかを示すものというべきである、その他原告の主張に反する被告等の主張は、すべて否認すると付演した。(立証省略)

被告等指定代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、本案前の答弁として、本件裁決の無効確認訴訟については被告委員会に当事者適格がないから、右訴は不適法であると述べ、本案の答弁として、原告主張の事実中、第一計画をしたこと、これに対して第一異議、第一決定及び第一訴願がなされたこと、これに対して被告委員会が何等の裁決もしなかつたこと、第二計画をしたこと、これに対して第二異議、第二決定、及び第二訴願がなされたこと、第三計画の公告をしたこと、第三決定をしたこと、第三計画に対して第三異議がなされたこと、第四決定をしたこと、第四決定の通知書に原告主張のような追記をしたこと、第四決定に対して第三訴願がなされたこと、本件裁決をしたこと、原告がその主張の日に右裁決書を受領したこと、及び本件買収をしたことは、すべて原告主張のとおりである、しかしながら、第一計画はこれに対する訴願審理の中途において、買収期日であつた昭和二十五年七月一日が経過し、又同年九月十一日に政令第二百八十八号(自作農創設特別措置法及び農地調整法の適用を受けるべき土地の譲渡に関する政令)が公布され、買収対価の計算方法が変更されたので、計画の遂行に重大な過失を生ずるに至つたゝめ、区委員会としては立消えしたものとして別にその取消の決定もせずに放置していたのであるが、昭和二十七年に至つて新に買収の必要を認めたので、第一計画とは無関係に第二計画を定めたのであるから、第二計画の公告をした折に第一計画の取消の意思が表示され、第一計画は消滅したのであり、第二決定は、区委員会の会議に付議せずに決定書が作成されたものであるから無効であつて、同年八月十六日に同月二日の区委員会の会議による決定に基いて取消しており、第二訴願は、無効な第二決定に対するものであるから無効であり、従つてこれに対する裁決はせずに同年六月十一日に訴願書を原告に返戻しており、第三計画は、第二計画の買収期日を同年九月一日に変更する公告をする予定であつたのを、書誤つて買収計画の公告をしたものであつて、かゝる計画をすることは区委員会の会議にも付議していないのであるから無効であり、第三決定は、無効な第三計画に対して原告から異議の申立がないのに異議の申立がなされるものと予想してしたものであるから無効であり、これも同年八月十六日に同月二日の区委員会の会議による決定に基いて取消しており、第三異議は、第三計画が無効なのであるから無効であり、従つて決定をせずに同月十八日に申立書を原告に返戻しており、本件の有効な手続は、第二計画、これに対する第二異議、これに対する第四決定、これに対する第三訴願、竝に本件裁決及び買収であるから、何等違法のかどはないのである、原告は本件第一山林については三回、本件第二山林については二回にわたつて同一の買収計画が樹立され、後のそれは当然無効であるから、無効な買収計画を前提とした本件裁決及び買収は無効であるというが、右両処分は前記のとおり有効な第二計画に基くものであり、原告の主張は誤つている、又原告は本件裁決が第二訴願に対するものか、第三訴願に対するものか全く不明であると主張するが、前記のとおり第三訴願に対するものである、更に原告は、区委員会が第四決定をするに際して、第二、三の両決定を取消した点を指摘して第四決定及びこれを前提とする本件両処分が違法であると主張するが、行政庁は自己のした行政処分の形式的手続又は内容が法規に違反すると認められ、かつ取消しうべき状態にある時には、自らこれを取消すことができるものと解すべきであるから、その取消ができないことを前提とする主張は、明らかに誤つている、次に原告は、本件両処分は実質的にも違法であると主張するが、(1)合場川の護岸改修用地として三間幅の土地を川添いに買収計画から除外しており、開墾希望者が本件山林を開墾する前に護岸用地に堤防を改築する計画であるから、開墾後に合場川が氾濫して水害に見舞われるようなことはなく、又本件山林の一部には小石を含む部分もあるが、これらは開墾の際に容易に取除きうる程度のものであり、土層は厚く洪積層で地味も肥えており、農林省指示の「開墾適地選定の基準」に示されている二級土性に該当し、開墾適地である。(2)京都府下の優良竹材生産地は乙訓郡であつて、本件山林附近の竹材は質的にも量的にも見るべきものがなく、外貨獲得に資するものとは到底考えられない、又現在日本は食糧不足のため海外から多量の食糧を輸入している実状で、今後も国内において食糧その他の農作物増産をする必要があり、土地の利用上も本件山林の如きは竹林のまゝ存置するよりは数倍の収益が上りうるのである、しかも本件山林は農地の中央に存在するので、四囲の農地に日蔭を生じ、病虫害の発生を助長し、又害鳥の巣となり、農作物の収穫を減少させているのである、(3)果樹栽培は多角的集約農業経営の一環として重要な部門をなしており、収益も竹林の比ではないから、原告のこの点に関する主張は当らない、(4)開拓適地審査会京都市地方部会は、京都府農事試験場の土壌及び種芸の専門技術者、京都府耕地課の技術者、京都営林署長等によつて構成されており、これらの者も本件山林の現地調査に参加し、慎重に調査審議しているのであるから、この点に関する原告の主張も亦当らない、以上のとおりであるから、いずれの点よりするも原告の請求は理由がないと述べた。(立証省略)

三、理  由

被告等は本件裁決の無効確認訴訟については、被告委員会に当事者適格がないと主張するので、先ずこの点について判断するに、本訴のように単に行政処分の無効の確認を求める訴は、行政処分が無効であることを前提として既存の権利又は法律関係の確認を求める訴とは異り、本来行政事件訴訟特例法第二条にいわゆる抗告訴訟に属するものと解するのが相当であり、他に同被告が本訴の当事者適格を有しないものと認めるべき理由はない。

而して、本件山林が原告の所有であることは、被告等が明らかに争わないから、これを自白したものと看做すべく、区委員会が第一計画をしたこと原告がこれに対して第一異議をしたこと、区委員会がこれに対して第一決定をしたこと、原告がこれに対して第一訴願をしたこと、区委員会がこれに対して何等の裁決もしなかつたこと、並に区委員会が第二計画をしたことは当事者間に争がない。

被告等は右両計画の関係について、第二計画の公告をした折に第一計画の取消の意思が表示されその時に第一計画は消滅したものであると主張するので、先ず第一計画を処分庁である区委員会が自ら取消すことができるかどうかについて考えることゝする。原告は行政処分に対する訴願が受理されゝば訴願の申立人において審議を受ける法律上の権利を取得するところ、その後に当該行政処分が処分庁によつて取消されると、右の権利が奪われることゝなるから、かゝる場合においては行政処分の取消はできないと主張するが、所論の権利は訴願庁による行政処分の取消を求める権利であると解すべきところ、行政処分が処分庁によつて取消されると、訴願庁によつて取消されたのと同一の効果を生ずるのであるから、所論の権利を奪われたことゝなるのではなく、その権利が目的を達して消滅したことゝなるものといわなければならないから、所論は採用できないのである。更に原告は、かゝる取消が許容されるとすれば何度でも同一の手続を繰返さなければならない結果となり、国家がかゝる不安定な救済手段を与えたものとは到底考えられないと主張するが、本件のように行政庁が同一の行政処分を何回も繰返すというようなことは通常はないことであるのみならず、現行法の訴願制度は争訟の解決というよりは行政処分による権利の侵害を救済する手続としての性格をもつものと解せられるから、所論にはにわかに賛成することができないのである。而して、行政処分には訴願の裁決のように裁判的手続を経て行われるものゝ外はき束力がないのであるから、既に与えた利益をはく奪するような場合を除いては、処分庁が自らその行政処分を取消しうるものと解すべきところ、第一計画については右のような制限事由が存在しないのであるから、区委員会において自らこれを取消しうるものといわなければならない。そこで次に第一計画の運命について考えるに、第二計画なるものは第一計画と同一内容(但し本件第二山林の部分及び買収の時期の点を除く)のものであることの性質上、特に第一計画を取消す旨を表明しなくても、当然に第一計画を取消しその効力を滅却させる趣旨の下に定められたものと認められるのであるから、第一計画は第二計画が成立した時に取消されたものといわなければならないのである。

次に原告が第二計画に対して第二異議をしたこと、区委員会がこれに対して第二決定をしたこと、原告がこれに対して第二訴願をしたこと、区委員会が第三計画の公告をしたこと、並に本件裁決及び買収がなされたことは、当事者間に争がない。

原告は区委員会が第三計画をしたと主張するので考えるに、行政行為は意思とその表示とをその成立要件とするものであるが、その中行政行為の成立に欠くべからざる絶対の要素をなすものは表示行為であつて、表示のない間は行政行為が成立したとは到底言えないが、意思の要件は必ずしも表示行為と離れて独立な絶対の要素をなすものではなく、表示行為があればそれによつて表示されているところがすなちその意思であると推定されるのであるから、同委員会が第三計画の公告をした以上、その公告されたところがその意思であつたものと推定され、従つて第三計画は成立したものといわなければならない。

そうすると、第二計画は第三計画と同一内容(但し買収の時期の点を除く)のものであるから、前記同一の理由によつて第三計画が成立した時に取消されたものといわなければならない。

被告等は第三計画が無効であると主張するが、その無効であることについては何等の立証もないのであるから、右認定を左右することはできないのである。

然るところ、本件裁決及び買収が第二計画を前提としてなされたものであることは、被告等の認めるところであるから、これら両処分は既に取消された第二計画を前提とするものとして、当然無効であるといわなければならない。

以上のとおりであるから、その余の点についての判断をするまでもなく原告の請求を正当として認容し、民事訴訟法第八十九条、第九十三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 青木英五郎 石崎甚八 坂本武志)

(目録省略)

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